「詩の授業」 ~詩人・向坂くじら先生と~
2月15日(月)に、詩人・向坂くじら先生を講師としてお招きし、全生徒さん対象の「詩の授業」をして頂きました。
授業の内容をレポートしていきます。
詩人として国内外で活動するほか、国語の家庭教師として教育にも携わるなど、幅広いフィールドで活躍中のくじら先生。
穏やかな笑顔で生徒さん一人ひとりに語りかけるくじら先生に、参加の生徒さん達も、いっきにリラックスムード。
自己紹介をおこなったところで、2時間の授業がスタートです。
くじら先生がまずテーブルの上に広げたのは、色とりどりの柔らかいプラスチックカード。
ピンクやブルー、イエローのカードに生徒さんも興味津々。
そして、早速お題が出されます。
「ここにあるカードを重ねて、今日みんなが朝起きた時の気持ちを表現してください」
何が始まるんだろう?とまだまだ不思議そうな生徒さんたちも、先生のあたたかい声かけのもと、せっせとカードを重ねては取りかえ、重ねては取りかえしながら黙々と自分の気持ちと向き合います。
色の調合が済んだところで、さらにくじら先生は続けます。
「次に、今自分がつくった色に名前をつけてください」
生徒さんたちの瞳に「えっ!」と小さな声がにじみます。
「青は青じゃないの?」
「緑…黄緑、とか、深緑とか?」
なんて声が聞こえてきそう^^
ところが不思議。
くじら先生から、「ピンクはピンクでも、〇〇なピンクとか。思うままの名前をつけてごらん」と促されると、生徒さん達の瞳にはひらめきが走り始めました。
そこで生まれた色の名前たちがこちら。
”雨に濡れたこけ色”
”あかるい雨色”
”今はえてきた芽の色”
”夕焼けの空色”
そうそう、今朝は久々の雨模様だったのよね。
しかし、同じ雨の朝も、一人ひとりによって、これだけ感じられ方が変わってくる。
生徒さん一人ひとりの名付けにあたたかく笑顔を向けたのちに、くじら先生はこうおっしゃいました。
「色、音、カタチ…一度イメージに変換すると、言葉にならなかったモノが言葉になって出てきやすくなります。これこそが、今日学ぶ”詩”においてよく使う方法です。」
「まだ言葉にならないモノに、言葉を使って近づいていく…そんなふうに思って詩をやっています」
くじら先生の言葉に、ハッとする一同(教師含む)。
続いて実際に詩を読む活動に入ります。
くじら先生が用意して下さった3つの作品を、まずは目で読んでみましょう、次は声に出して、今度は周りの人の声の重なりを感じながら…と様々な感覚を使いながら読んでいきます。
ん?なんだこの漢字はどう読むの?という語句については、みんなで読み方を相談。
紅…アカ?ベニ?クレナイ?
ん~、アカだと普通すぎるね。
でもクレナイだとカッコつけすぎじゃない?
じゃぁベニでいこうか。そんなふうに。
普段ただの”ツール”として使っていた言葉が、突然、温度や色彩や湿度を帯びた、何か生々しいものに感じられてくるから不思議。
こんなふうに言葉にじっくりと歩み寄りながら3つの詩を読み進めたのですが、一つの詩でも人によって受け取る印象がまったく異なるんです。
くじら先生は何度も生徒さんたちに「この詩は、この言葉はどういう感じがする?」「この詩は、どういうところが詩っぽいと感じる?」と繰り返し問うていました。
先生のこの質問に対する生徒さんの答えも実に様々。
核心をつく鋭い解答にうなったり、意表をつくナイスな発言に大笑いしたり。
「きみ」に対する語りかけではじまる谷川俊太郎さんの詩「体」を読んだのですが、生徒さんのひとりがそれに対して、「こんなことをいわれても読んだ人はなにも言い返せないんだから、書いた人は勝手に言ってると思う」と言っていて、たしかにそういう面はあるなと思いました
— 向坂くじら(ことぱ舎) (@pomipomi_medama) February 16, 2021
生徒さんたちは、先生との丁寧な対話の繰り返しによって、「詩とは何か」の問いの答えに近づいていきます(この流れは、本当に見事でした。生徒さんと先生のセッションを見ているよう)。
丸々1時間じっくり詩と向き合ったところで、後半戦はいよいよ詩の創作活動です。
先ほどの色とりどりのカードで、自分の”心地よい色”を調合したのち、その色から想起する詩を作ります。
最初は筆の進まなかった生徒さんたちも
「一行目が苦しい。でも、一行目が書ければまた言葉が生まれてくる」
という先生のアドバイスのもと、やがてスラスラと書き始めます。
詩の創作中の、くじら先生と生徒さんのやりとりがとてもよかった。
「自分にとって本当のことを書いているから恥ずかしいのか、知らないことをごまかして知ってるように書いてるのが自分で分かっているから恥ずかしいのか、そのどちらかだと思うのですが、どちらか分かりますか?」と聞くと、彼はすこし悩んだあと、はっきり「前者です」と答えてくれました
— 向坂くじら(ことぱ舎) (@pomipomi_medama) February 16, 2021
あー前者ならもうしょうがないね、どうしても人に見せられないくらい恥ずかしいなら消してもいいですが、といって一回離れたのですが、その行は最後に見せ合いをする時まで無事(?)残っていました
— 向坂くじら(ことぱ舎) (@pomipomi_medama) February 16, 2021
(くじら先生のツイートをお借りしました)
くじら先生は急かさず、生徒さんの一語一語が生まれてくるのをじっくりと待って下さり、やがて生徒さんたちもスラスラと作品を仕上げていきました。
お時間を延長してまで、生徒たちの創作活動を見守り、支えて下さったくじら先生。
おかげ様で、参加の生徒さん全員が、詩をとおして自分の心の中に近づく事ができました。
詩とは何か。
言葉とは何か。
くじら先生が一貫して語り掛け続けていらしたこの問に、生徒さんたちはどのような答えを見出したでしょう。
その答えは、きっと一人ひとり違うはず。
”まだ言葉にならないモノ”として、生徒さん一人ひとりの胸の中にむくむくとふくらみを見せ始めているのではと思います。
(その答えが、いつか”言葉になって出てくる”日がくるのが楽しみです)
くじら先生との出会いをとおして、また一つ心にきらめきを見つけ、目を輝かせて帰って行った生徒さん達でした。
向坂くじら先生は、オンラインでも多方面でご活躍中です。
皆さんもぜひ、くじら先生の”ことば”の世界をのぞきこんでみてはいかがでしょうか。
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